Atlantis-5
 
  
バキューム直貼り翼について

ここ2年ほどでハンドランチグライダーの世界は著しく進化しました。
コンピュータを駆使して作られたハイテク競技用機が沢山登場し、
自作機がそれらに食い込むことは非常に難しくなってきています。

無風で2分以上も滞空する、これら最新鋭の機体と戦える性能を出すためには、
出来るだけ精度の良い翼(特に翼型)を作る必要があります。
そこで、バルサ翼よりも精度が出せると言われている直貼り翼に挑戦したいと思います。

バキューム成型による発泡直貼り翼の成型方法(以下バギングと略します)には、
大きく分けてPhil BarnesさんのDVDで説明されている方法(通称アメリカ式)と、
根岸さんや淀川滑空班の方々が行っている方法(日本式?)の二つがあるようです。

どちらの方法も一長一短があり、どちらを選んでもいいのですが、
とりあえず、本場アメリカではどんなことが行われているのか
大変興味がありましたし、DVDを手に入れて手順は良く分かりましたので、
まずはアメリカ式で作ることにしました。
機会があれば日本式のバギングにも挑戦してみたいと思います。
(マニュアルを送ってくれた香西さん堀内さんら淀川滑空班の方々、
アドバイスしてくれたTTFの皆さん、どうもありがとうございます。)

Phil BarnesさんのDVDへのリンクはこちらです。
http://home.paonline.com/hayman/PAGE2.htm
内容のキャプチャー画像
http://www.gliders.dk/phil_barnes%20wing%20bagging%203m.htm



バギングの構成図(アメリカ式)



材料リスト

スタイロフォーム ダウ化成  EK、 GK、 GKII、など  (IBは不可)  ホームセンターなどで注文
バキュームバック 布団圧縮袋などで代用可  バキュームコネクターがあるとさらに便利サノファクトリーで購入
ブリーザー ポリエステルシート 厚さ3-4mm (フエルト)  
          サノファクトリーで購入   キッチンペーパー数枚で代用可
リリースフィルム ビニールシートなど ゴミ袋でも可
マイラーシート マイラー(PET樹脂)シート 約0.35mm厚  (仲間から分けてもらいました)
マイクログラス Finish550 平織 Plain weave 0.050mm 49g    サノファクトリーで購入
カーボンシート 縦方向の繊維のカーボンキュアシート  厚さ約0.15mm  R-C HOBBYで購入

スタイロフォームの種類

表面がザラザラしてスポンジ状になっているのがIB、きめ細かいのがGK-IIです。
私は近所のホームセンターにあったGK-IIを使いました。
EKとGKは表面処理が違うだけで内部は同じ物らしいです。
IBは余分な樹脂を吸ってしまうのではないかという不安から使いませんでした。

マイラーシート(フィルム)の購入先
アマゾンで購入できます>>>

マイラーシートの硬さと仕上がり

あまり柔らかい(薄い)シートだと表面がデコボコになりますので、
0.3mm以上のPET樹脂シートなど、なるべくパリッと硬いものの方が仕上がりが綺麗に出来ます。

最適な硬さのマイラーシートと、柔らか過ぎるマイラーシートでの比較写真



樹脂量について
大事なのはコアとマイクログラスの間の空気を抜くことなので、
その部分の樹脂が多すぎると空気が抜けなくなります。



樹脂を塗る場合、マイクログラスの繊維の凸凹が見える程度の樹脂量がいいと思います。
ティッシュを押し付けて徹底的に樹脂を吸い取る人もいます。

バキュームポンプは樹脂が硬化するまで動かし続けてください。
もし、フードシーラー(真空パック)で作っている場合は、
パックしたあと加熱すると中の空気が膨張して浮いてきますので、加熱しないでください。

....
図面

Atlantis-5はトップクラスの機体として唯一図面が公開されている
Drela博士設計のSuperGeeシリーズをお手本にしています。
http://www.charlesriverrc.org/articles/supergee/SuperGeeI.htm
http://www.charlesriverrc.org/articles/supergee/SuperGeeII.htm


Drela博士について

SuperGeeの設計者Mark Drela氏は、
マサチューセッツ工科大学(MIT)のエアロダイナミックスの博士で、
空力設計者として世界的権威です。

彼が設計に携わった人力飛行機ダイダロスは、
約4時間で115.11kmと言う途方も無い世界記録を持っていることでも有名です。
また、人力水中翼船のスピード記録も持っています。

そして、もちろんトップクラスのハンドランチ競技者でもあります。

Atlantis-5の設計ポイントとしては、
たとえ、バギングなどの工作技術が伴わなくて重量級になっても、
ある程度浮きを確保できるように、少し翼弦を広げた設計で
翼面加重を減らそうと考えています。

尾翼が大きめなのは、機体自身の自立安定を高めて、
荒れた空気の中でも操縦を容易にしようという考えからです。
また、アスペクト比の大きな水平尾翼はサーマル旋回中など、
水平尾翼に大きな迎角が必要な時に、誘導抵抗をなるべく減少させようと思ったからです。

上反角が大きめなのも、ラダー機のように
機体自身の安定を与えて操縦者の拙い操縦技術をカバーしようという考えからです。(笑)
また、これでサーマル旋回中のエルロンの逆打ちも解消しようと考えました。


  翼型は、これでないと勝負にならないと思われるほど
競技では圧倒的な普及率を持つDrela博士設計のAGをチョイスしました。

その性能は折り紙つきです。
尾翼の製作

バギング作業は初めてのことなので、練習の意味もあり、
まずは尾翼から製作することにします。
垂直尾翼はSuperGeeにならい、左右非対称の翼型です。
「垂直尾翼はデルタ型が良い」との最近の研究結果があることを聞き、
急遽デザインを変更しました。

 

バルサでコアを作り、マイクログラスをバギングします。
水平尾翼はファイヤーワークスのようにフライングテールになります。

   

★ ビデオ 
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RC-TV

http://www.youtube.com/watch?v=_nJaP76ca_M
尾翼の加工をしたあと、バギング中の動画です。
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RC-TV

 

 
最終的に垂直尾翼8.3g、水平尾翼11gの重量でした。
Fireworks IIIよりも一回り大きい尾翼です)



主翼の製作

  

スタイロフォームを切り出して、いつものようにテンプレートと熱線でカットしました。

    

★ ビデオ 
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RC-TV

http://www.youtube.com/watch?v=-NlB1E0xyrk
翼の熱線カット作業中の動画です。
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RC-TV

 

 

翼端を丸く整形します。

 

スパー用のカーボンを切り出しました。

カーボンの厚み分の溝を掘った主翼に、エポキシで接着します。


★ ビデオ 
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RC-TV

http://www.youtube.com/watch?v=pLQ2BtBC9d4
スパー接着などの動画です。
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RC-TV

 

 

主翼のバギング作業


★ ビデオ 
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RC-TV

http://youtu.be/0qPbCcQfoJc
主翼をバギング中の動画です。
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RC-TV

 

 

硬化後、マイラーシートをはがした状態。
ピカピカの翼が高級感をかもし出しています。

強度は最高ですが、片翼で85gもあります。(^_^;)汗   
強度不足を心配して樹脂を多く使いすぎたようですね。
まあ、初めてのバギングなので、この位でも上出来でしょう。

ヒント
初めての場合は、本番の前にハギレの材料などを使って、
樹脂の量を変えて何種類か実験してみることをお勧めします。
また、樹脂の扱いに不慣れな場合は、作業に時間がかかりすぎて
硬化が始まってしまいますので、片翼ずつ作るほうが安心でしょう。

硬化後、樹脂が少なくて気泡のように白くなっている部分は、
表から樹脂を指ですり込むと、ある程度修正できます。

後縁を極限まで薄くしないと、このように気泡が入ることが分かりました。
でも、飛行性能には影響ありませんので、気にしないことにしました。(笑)

コアの後縁は、裏側に幅広のマスキングテープを貼って削ると
0.1mm位まで薄くすることが出来ます。



エルロン加工

エルロン部分にカッターでV字に切込みを入れます。
最新のハンドランチグライダーの研究では、実は下ヒンジの方が空力的に良いらしいです。

下側のグラスは残しておいて、ヒンジにします。

そのままでは動きが硬すぎるので、サンドペーパーで微調整しました。

320番のサンドペーパーでカットラインを整えています。

翼端は三角形にして、トリエルロンとします。

とりあえずAtlantis3の胴体を使うことにしました。
この胴体は中翼の形態をとっているので、少々複雑な組み合わせ加工が必要です。



水平尾翼ブラケットの製作

0.3mmアルミを曲げて型を作りました。
内側に離型剤を塗っておきます。

1Kカーボン3枚をエポキシで積層しました。
中央部は離型剤を塗ったカーボンパイプで押さえます。

硬化後カットした状態。



仮組み

垂直尾翼をエポキシで接着し、仮組みしてみました。
思ったよりカッコ良く出来ているようです。 o(^-^)o

      
リンケージ

リンケージはテフロンチューブ#20 +ギターの弦0.014"〜0.018"です。
これは、遊びや伸びが無い軽量で確実なリンケージが可能な最新技術です。

テフロンは摩擦が少ないため、舵残りを排除でき、
ギターの弦は伸びないため操舵感は非常にダイレクト、
現在ハンドランチ用として考えられる最高のリンケージです。

ただし、これを導入するには工作にコツがあり、テフロンチューブを約2倍に伸ばしたあと、
リンケージ全体にわたって瞬間接着剤で胴体外側に接着し、
ホーン手前には、バルサなどで滑らかなスロープを作る必要があります。

日本語版のマニュアルはこちら>>>

胴体裏面。 テフロンチューブが這っています。


 
 

ラダーリンケージのためのバルサ製スロープ。

エレベーターリンケージは、このようになっています。

エルロンは1mmカーボンロッドによるリンケージです。

  

エアブレーキはこのように下方向に動きます。


とりあえず飛ばしてみる

上反角が最適であるか判断するために、
まず、左右の翼をクリアーテープで繋いで軽く滑空テストすることにしました。

飛ばしてみてまず感じるのは、操縦性の良さです。
前作のエルロン機Atlantis-3は上反角がほとんど無い上に、
前進翼のために直進安定が悪く、飛行中に常に当て舵が必要でした。

また、後縁が切れ上がった楕円翼のため、翼端のエルロン面積が極端に狭く、
低速ではエルロンが効かないなど、非常に苦労して飛ばしていました。

しかし、今回の新作機Atlantis-5では
何の苦労も無く、思ったとおりのラインをトレースできます。

上反角に関しては、サーマル旋回中のエルロンの逆打ちの必要は完全に無くなりましたし、
操縦性も非常に良く、設計図のままの角度でいけると感じました。

また、思ったとおり滑空性能は格段に上がったことが感じられました。
やはり翼型が綺麗に再現されているためでしょう。
グライダーにとって、正確な翼型は命だということを再認識しました。



左右の接合

1Kカーボンとエポキシ樹脂で左右スパーを連結しています。
ビニールシートに挟んで、ステッカーのように貼ると綺麗に仕上がります。

その他の部分はマイクログラス2枚重ねで接合しました。



ペグの取り付け

カーボンの端材を使ってペグを作り接着しました。
 

        
完成!

うーん、なかなかカッコいいかも! (笑)


スペック
全長        :1100mm
全幅        :1500mm
主翼面積 :25dm2
主翼翼型 :AG455ct>AG46ct>AG47ct
全備重量 :約303g
翼面荷重 :約12g/dm2
胴体材質 :カーボンケブラー混織+カーボンパイプ
主翼構造 :スタイロフォーム+マイクログラスのエポキシ直貼り
        スパーはカーボンシート
尾翼構造 :バルサ+マイクログラスのエポキシ直貼り
材料費   :約20000円位?
 

ピカピカの翼! o(^-^)o



インプレッション

 

早速、フルランチしてテストしてみました。
樹脂を多めに使ったせいで強度は凄いので、(笑)
ランチ時のフラッターや不安定な挙動はまったくありません。

過去、私が自作したバルサ翼のハンドランチグライダーは、
無風の場合一番良くても1分10秒ほどの滞空時間でした。
もちろんこれは、私がランチが下手で
高度が低い(30m〜32m)ということにも原因があります。(^_^;)

しかし、この機体は同じ位の30mの高度から、
無風で1分40秒〜50秒飛んでいることがありますので、
ランチが上手い人が40mまで投げ上げれば、2分を超えることは可能だと思われます。

それにしても、主翼をFRPの直貼りにするだけで、
これほど飛躍的に性能が良くなるとは思いませんでした。

もちろん、ファイヤーワークス3などの
トップクラスの機体の性能にはかなわないと思いますが、
頑張ればなんとか勝負になる程度の性能はあると思います。

またこの機体は、操縦性と安定性が非常に良いです。
サーマル旋回中も、機体の姿勢を維持するために余計な修正舵を打つ必要がありません。
大きめに付けた上反角と充分な面積を持つ尾翼のせいでしょう。

進入性も大変良好です。
ある時、投げ上げた場所が下降気流だったのを見て、
すぐさま風下にフルスピードで向かい、通り過ぎたサーマルに入れた事もあります。

この機体の欠点としては、やはり300gの重量でしょう。
手投げ時にかなりの負担を感じます。

でも、その重量のために飛行前に心配していた浮きの悪さは
実際に飛ばしてみるとそれほど感じませんでした。
あらかじめ翼弦を広げておいたのが良かったようです。

   

広げた翼弦のせいで空気抵抗自体は大きくなっているはずなので、
ランチ高度が低めなのはそのせいもあるのかもしれません。

しかし、レイノルズ数の関係で翼弦が20cm以下になると翼の効率が悪くなるらしいので、
翼弦を広げることは悪いことばかりではないかもしれません。

上反角が大きめなので、ラダー機のようにラダーで旋回できます。
自立安定も良く大変操縦しやすいですが、
その上反角のせいでランチ直後に機体が斜めになりやすいので、
もっと練習が必要ですね。

この機体は、サーマルにも良く反応し、
気流の変化による機体の上下動がはっきり分かります。
おそらく翼型の精度が上がったので、空気の張り付き感が向上したのでしょう。

大き目の尾翼を与えることにより、後ろ重心でも安定して飛ばそうという試みも、
どうやら成功したようです。

 

両エルロンを下向きに動かして作動するエアブレーキは、急角度の頭下げ姿勢でゆっくり降りてくるため、
慣れないと奇妙な感じを受けますが、ブレーキの利き自体は大変良好です。

何はともあれ、この機体は
私が過去に飛ばしたグライダーの内では一番の高性能機であることは、
間違いありません。  飛ばしていて大変楽しいです! o(^-^)o

         
             

★ フライトビデオ 
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RC-TV

http://www.youtube.com/watch?v=7MOX3T69SMU
送信機にビデオカメラを縛り付けて撮影しました。(笑)
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RC-TV

 

 
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